花見に関連する作品

小説

桜が関連する小説として、最も有名なものと言えば、梶井基次郎の短編小説として、昭和3年(1928)に「詩と詩論 第二冊」に発表した、「櫻の樹の下には」ではないでしょうか。これは、桜の木があんなにも美しいには、その下に死体が埋まっているからだという空想に囚われた主人公が死というものへの期待を深めていく物語です。

主人公は、人々がその美しさの虜となる桜の満開の様子を見て、あまりの美しさに素直に直視することができず、負的な要素として死のイメージを重ね合わせます。そして、そうすることで初めて心の動揺を抑え、その美しさに対する自らの劣等感などから回避することを可能にし、受け入れられるという非常に繊細な心の持ち主である主人公を中心にし、そのモノローグという形になっており、一風変わった作品とも言えます。

他には、昭和22年(1947)に坂口安吾が発表した「桜の森の満開の下」という短編小説があります。これは、舞台として、12世紀の鈴鹿峠が設定されており、内容は一言で言うととても不気味です。次々に旅人を殺し、連れの女を女房にして家に一緒に住まわせるということをずっとしていた、鈴鹿峠に住む山賊が主人公となっています。

これほどまでに恐ろしい山賊ですが、桜が満開の時に通ると、気が狂ってしまうのだと信じて、桜の森だけは恐れていていたのです。しかし、旅人を殺し、連れでいた都から来た女と暮らし、後に共に都へ出掛け、帰りの道で悲劇が訪れます。

ずっと山賊が恐れ、近づかないようにと心掛けていた桜の森でしたが、山へ戻ってきた嬉しさにそこを通ってしまい、そこで鬼に襲われるという幻に合い、抗戦しようと鬼の首を締めあげます。そして、我に返ると、なんと殺したのは鬼ではなく、桜の中で女が死んでいたのでした。

このように、桜は、その美しさと対称的な死や、狂い、悲しみなどとともに小説の中で描かれることが多く、ストーリーの中での桜の出現はその場面を一気に幻想的な雰囲気にさせる、美しくも恐ろしいパワーを持っているのではないでしょうか。